退去費用が100万円・200万円になるのは、経過年数が効かない項目が積み上がったときです|クロスもエアコンも6年で残存価値1円になります

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この記事で分かること
  • 退去費用の請求書を受け取ったら、まず出してもらうもの
  • クロスもエアコンも6年で残存価値1円になる、という国土交通省ガイドラインの計算
  • 経過年数が効かない項目(鍵・クリーニング・畳表・襖紙・障子紙)
  • 100万円・200万円という金額が出てくるときに、請求書のどこを見るか
  • 納得できないときに動く順番と、少額訴訟が使える金額の上限
退去したあとに届いた請求書の金額が、想像していた桁と違う。そういうときに最初にすることは、金額そのものを見比べることではありません。内訳の明細と、部位ごとの「経過年数」がどう扱われているかを確かめることです。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(平成23年8月・住宅局)は、借主が負担する場合でも、部位ごとに年数で負担割合を減らす考え方を示しています。クロスなら6年、エアコンなら6年で、借主の負担は1円まで下がる計算です。
ただし、この減り方がまったく効かない項目が別にあります。高額な請求は、たいていそこに集まります。
※ この記事のガイドラインに関する記載は、国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」(平成23年8月)の本文・別表2・Q&Aによります(2026年9月16日にPDFを取得して確認)。ガイドライン自身が「あくまで負担割合等についての一般的な基準を示したものであり、法的な拘束力を持つものでもない」と書いています。実際の負担は賃貸借契約の内容と部屋の状態で決まるため、個別の判断は契約書と、お住まいの自治体の消費生活センターへの相談でお願いします。

高すぎると思ったら、まず明細を出してもらってください

最初にやることは、部位ごとの単価・数量・経過年数の扱いが分かる明細を請求することです。合計額だけの請求書では、ガイドラインと突き合わせる材料がありません。
国民生活センターも、2026年2月17日に公表した注意喚起の中で「納得できない請求をされた場合は、貸主側に費用の明細等の説明を求め、費用負担について話し合いましょう」と書いています。
明細に入っていてほしいのは、次の4つです。
  • 部位の名前(クロス、フローリング、畳、エアコン、鍵、クリーニングなど)
  • 施工の単位(㎡、1枚、1本、1室、住戸全体のどれか)
  • 単価と数量
  • その部位の経過年数と、それを負担割合にどう反映したか
4つ目が書かれていない請求書は、ガイドラインの考え方が反映されているかどうかを外から判定できません。

クロスもエアコンも、6年で残存価値1円になります

ガイドラインは、借主に原状回復義務がある場合でも、年数が経つほど負担割合を減らすという考え方を採っています。理由もはっきり書かれています。
経年変化・通常損耗の分は、賃借人は賃料として支払ってきているところで、賃借人が明け渡し時に負担すべき費用にならないはずである
つまり、経年変化のぶんを退去時にもう一度払うと二重取りになる、という整理です。
数字の根拠は税制です。平成19年の税制改正で残存価値が廃止され、耐用年数を過ぎた時点で残存簿価1円まで償却できるようになりました。ガイドラインはこれを受けて、たとえばカーペットなら6年で残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定し、そこから借主の負担割合を決めるとしています。壁のクロスも同じ6年です。
ここで注意が1つあります。経過年数を超えた設備でも、借主が故意・過失で壊した場合は負担が生じることがあります。ガイドラインは「賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)」を例に挙げています。年数が過ぎていれば何をしても0円、ではありません。

経過年数が分からないときは、入居年数で代わりに数えます

中古の物件では、設備をいつ交換したかの履歴が分からないことがあります。そこでガイドラインは、経過年数のグラフを入居年数で代替する方式を採用しています。
入居した時点の設備が新品とは限らないので、その状態に合わせてグラフを下げて使います。入居直前に交換していれば出発点は100%、そうでなければ建築後の経過年数などを勘案して、1円を下限に出発点を決める、という書き方です。
長く住んだ人ほど、借主の負担割合は下がります。10年住んだ部屋のクロスで新品同様の張替費用を全額請求されているなら、その1点だけでも明細の説明を求める理由になります。

設備ごとの年数は、ガイドラインに一覧があります

別表2の「主な設備の耐用年数」は、次のように分かれています。
耐用年数対象
5年流し台
6年冷房用・暖房用機器(エアコン、ルームクーラー、ストーブ等)/電気冷蔵庫、ガス機器(ガスレンジ)/インターホン
8年主として金属製以外の家具(書棚、たんす、戸棚、茶ダンス)
15年便器、洗面台等の給排水・衛生設備/主として金属製の器具・備品
当該建物の耐用年数ユニットバス、浴槽、下駄箱(建物に固着して一体不可分なもの)
※ 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」別表2(24ページ)より。2026年9月16日に該当ページを画像で確認しています。
最後の行が、金額に効きます。ユニットバスや浴槽は建物の耐用年数が当てはまるので、木造でも鉄筋でも年数が長く、6年で1円になるクロスのようには下がりません。浴室まわりの張替えや交換が入った請求書が高くなりやすいのは、この扱いの差によります。

経過年数が効かないのは、この4つです

項目ガイドラインの扱い
鍵の紛失経過年数は考慮しない。交換費用相当分を全額借主負担
クリーニング経過年数は考慮しない。通常の清掃を実施していない場合に、部位もしくは住戸全体の清掃費用相当分を全額借主負担
畳表・襖紙・障子紙消耗品にあたり減価償却資産にならないため、経過年数は考慮しない
フローリングの部分補修経過年数は考慮しない(床全体を張り替えた場合のみ、当該建物の耐用年数で減価)
「通常の清掃を実施していない場合」という条件を落とさないでください。ガイドラインが借主の原状回復義務として挙げているのは、ゴミ撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り清掃、換気扇やレンジ回りの油汚れの除去といった通常の清掃です。これをやったうえで残る汚れの清掃費まで、当然に借主負担になるとは書かれていません。
タバコについては別の扱いがあります。喫煙等により居室全体でクロスがヤニで変色したり臭いが付着した場合に限り、居室全体のクリーニングまたは張替費用を借主負担とすることが妥当とされています。

では、なぜ100万円・200万円という金額が出てくるのですか

ガイドラインの計算に素直に従うと、居室の内装だけで100万円・200万円に届くのは簡単ではありません。クロスもカーペットも6年で1円まで下がるからです。それでも大きな金額の請求書が存在するとしたら、見るべき場所は4か所あります。
  1. 経過年数が効かない項目が積み上がっている(鍵の紛失、クリーニング、畳表・襖紙・障子紙、フローリングの部分補修)
  1. 建物の耐用年数が当てはまる設備が入っている(ユニットバス、浴槽、下駄箱、フローリング床全体の張替え)
  1. 原状回復ではない費用が同じ請求書に載っている(未払いの賃料、短期解約の違約金、残置物の処分費など)
  1. 特約を根拠に、通常損耗のぶんまで借主負担にしている
3番目は、明細を出してもらうまで気づけません。合計額を見て「原状回復費が高い」と感じていたものの一部が、別の性質のお金だったということが起こります。管理会社ごとの扱いの違いは、大東建託の退去費用レオパレスの退去費用URの退去費用のように、会社別の記事にまとめています。
そして負担の範囲にも上限の考え方があります。ガイドラインは、クロスの張替えについて「㎡単位が望ましい」としつつ、やむをえない場合は毀損箇所を含む一面分までとしています。色あわせ・模様あわせのための追加分は借主負担にしないと明記されています。部屋全体の張替えが当然のように載っているなら、その根拠を聞いてよい部分です。

実際に寄せられている相談の金額はいくらですか

国民生活センターが2026年2月17日に公表した注意喚起には、相談事例が4件載っています。請求額は次のとおりでした。
相談の内容請求額受付
契約書の特約に「故意過失にかかわらずクロスや床の張替等は100%の料金を請求する」とあった契約書どおりだと10万円以上2025年11月
入居時と退去時の両方でエアコンクリーニング代を請求された原状回復費用 約6万円(うちエアコンクリーニング2万円)2025年10月
6年居住。壁紙のソファ跡の張替えと浴室ドアの補修合計17万円(経過年数6年で壁紙代は免除、工賃の2割5万円を請求)2025年5月
約10年居住。クロス全面張替えと畳の表替え敷金約6万円のうち約4万円が敷引き、別途 約20万円2025年6月
※ 独立行政法人国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意!」(2026年2月17日公表)より。4件の事例であって、請求額の分布を示す統計ではありません。
相談件数そのものも増えています。同センターの「2025年度 全国の消費生活相談の状況」(令和8年8月5日公表)では、商品・役務等別で「賃貸アパート・マンション」が3位・43,148件(2024年度は4位・34,908件)で、増加の理由として退去時の原状回復トラブルが挙げられています。

「特約があるから」と言われたときに確かめる3つ

特約があれば何でも通るわけではありません。ガイドラインは、経年変化や通常損耗の修繕費を借主に負わせる特約について、次の3つを満たしていなければ効力を争われることに留意すべきだとしています。
  1. 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  1. 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  1. 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
クリーニング特約については、Q&Aでさらに具体的な判断基準が示されています。①負担すべき内容・範囲が示されているか、②本来借主負担にならない通常損耗分も負担させる趣旨と、その具体的な範囲が明記または口頭で説明されているか、③費用として妥当か。この3点から有効・無効が判断されるという書き方です。
契約書に一行あるだけ、という状態は②を満たしにくいということになります。重要事項説明でどう説明されたかを思い出してください。

明細に納得できないとき、どの順番で動きますか

いきなり裁判ではありません。順番があります。
  1. 明細と根拠を書面でもらう(部位・単位・単価・数量・経過年数の扱い)
  1. ガイドラインの別表2と突き合わせる(経過年数が効くはずの部位に反映されているか、負担単位が過大でないか)
  1. 消費生活センターに相談する(消費者ホットライン 188。最寄りの窓口を案内してもらえます)
  1. それでも折り合わないときに、裁判所の手続を検討する
4番目について、金額の上限があります。少額訴訟は60万円以下の金銭の支払を求める訴えに限られます。裁判所の案内によれば、原則として1回の審理で判決まで進み、分割払・支払猶予・遅延損害金免除の判決が出ることもあります。留意点として、利用回数は1人につき同じ裁判所に年間10回まで、被告の申立てや裁判所の判断で通常訴訟に移ることがある、と示されています。判決への不服申立ては異議の申立てに限られ、控訴はできません(判決を受け取った日の翌日から2週間以内)。
なお、令和8年5月21日以降は、書面に加えてオンラインでの提出(電子申立て)もできるようになりました。
※ 裁判所ウェブサイト「少額訴訟」(2026年9月16日に取得)より。手数料や必要書類は同ページと「手数料早見表」で確認してください。訴訟費用の支払を猶予する「訴訟上の救助」や、法テラスの民事法律扶助による立替制度についても同ページに案内があります。

敷金は何を引いて返すことになっていますか

民法は、敷金から差し引けるものを条文で定めています。第622条の2は次のとおりです。
賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
引けるのは「賃貸借に基づいて生じた債務の額」で、返すのは「残額」です。ガイドラインのQ&Aも、明け渡しまでに未払賃料や損害賠償金債務等が生じていなければ、敷金は全額が返還されることになると書いています。
原状回復義務そのものも、条文に範囲が書かれています。第621条は、借主が原状に復する義務を負う「損傷」から、通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに経年変化を除くと定めています。

よくある質問

明細を出してもらえないときはどうすればいいですか。
消費生活センターに相談してください。消費者ホットライン188にかけると、最寄りの市町村や都道府県の窓口を案内してもらえます。国民生活センターも、納得できない請求を受けたときはまず費用の明細等の説明を求めるよう案内しています。
200万円を請求されました。少額訴訟で争えますか。
少額訴訟は60万円以下の金銭の支払を求める訴えに限られるため、請求額そのものを争う手続としては使えません。一方、返してもらう敷金の額が60万円以下であれば、敷金の返還を求める側の訴えとして検討の余地があります。どの手続が適切かは事情によるため、消費生活センターや法テラスに相談してください。
立会いのときにサインしてしまいました。もう覆せませんか。
ガイドラインの考え方では、立会いの確認書にサインしたことが、そのまま金額に同意したことにはなりません。詳しくは退去の立会いは「しないほうがいい」のかにまとめています。
長く住んだほうが負担は減りますか。
ガイドラインの考え方ではそうなります。経過年数(または入居年数)が多いほど借主の負担割合は下がり、クロスやカーペットは6年で残存価値1円まで下がる計算です。ただし鍵の紛失やクリーニングなど、年数が効かない項目は別です。
クロスの一部を傷つけました。部屋全体の張替費用を払うのですか。
ガイドラインは㎡単位が望ましいとしつつ、やむをえない場合は毀損箇所を含む一面分までを借主負担とすることが妥当としています。色あわせ・模様あわせのための追加分は借主負担にしないと明記されています。
タバコを吸っていました。全室の張替えになりますか。
ガイドラインは、喫煙等により居室全体でクロスがヤニで変色したり臭いが付着した場合に限り、居室全体のクリーニングまたは張替費用を借主負担とすることが妥当としています。居室全体に及んでいるかどうかが分かれ目です。

退去日を決める前に、手配を並行させてください

請求書の話は退去のあとに来ますが、金額を減らせる余地があるのは退去の前です。ガイドラインが借主の義務としている「通常の清掃」をやったかどうかで、クリーニング費の扱いが変わります。
自分で落としきれない汚れだけを頼む方法もあります。手入れを怠ったことによる油汚れや水垢は、経過年数を考慮せず借主負担になりうる部分なので、退去前に落とす効果が相対的に大きいところです。対応エリアは東京・神奈川・千葉・埼玉と、群馬・茨城の一部です。
※ 首都圏に都市ガスを供給する東京ガスのサービスで、申し込みから作業まで一社で完結します。Web専用のオンライン販売に絞って価格を抑えており、作業は東京ガスの審査を通った認定施工会社が担当します。
引っ越し費用は荷物の量だけでなく時期でも変わります。退去日は解約予告の起算点にもなるため、日程を固める前に複数社を並べて比べるほうが確実です。

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まとめ

  • 最初にすることは金額の比較ではなく、部位・単位・単価・数量・経過年数の扱いが分かる明細をもらうことです
  • ガイドラインは、借主負担の場合でも年数で負担割合を下げます。クロスもカーペットもエアコンも6年で残存価値1円、便器・洗面台等は15年、ユニットバス・浴槽・下駄箱は建物の耐用年数です
  • 年数が効かないのは、鍵の紛失・クリーニング・畳表・襖紙・障子紙・フローリングの部分補修です。高額な請求はここに集まります
  • 大きな金額のときは、原状回復ではない費用(未払賃料・短期解約違約金・残置物の処分費)が同じ請求書に載っていないかを見てください
  • 特約は3要件(客観的・合理的理由/認識/意思表示)を満たしていなければ効力を争われます
  • 動く順番は、明細 → ガイドラインと照合 → 188 → 裁判所の手続です。少額訴訟は60万円以下、年間10回まで、控訴はできません
  • 敷金は民法622条の2により、債務の額を控除した残額を返還することになっています
この記事の中で、今日すぐできることは1つです。請求書と一緒に、部位ごとの経過年数が書かれた明細を送ってもらえるよう、書面かメールで依頼してください。話はそこからしか始まりません。