転勤の引っ越し費用は、会社が出しても原則として課税されません|所得税法の非課税の範囲と、超えた分が転勤・入社・退職で別の所得になる理由

この記事を読むと分かること
  • 転勤の引っ越し費用を会社が負担することは、法律では決まっていないこと
  • 会社が出した引っ越し費用は、所得税法第9条第1項第4号で非課税とされていること
  • 「通常必要」かどうかは、社内のバランスと同業他社との比較で判定されること
  • 通常必要を超えた分の扱いが、転勤・入社・退職でそれぞれ別の所得になること
転勤の引っ越し費用は、相場を調べても答えが出ません。金額を決めているのは荷物量や距離よりも先に、勤め先の規程だからです。そして規程がどこまで通るかは、税法の側から線が引かれています。
この記事では、転勤に伴う引っ越し費用の扱いを、所得税法・所得税基本通達・労働基準法・民法・住民基本台帳法の条文から整理します。金額の相場表ではありません。条文はいずれも2026年9月11日に、国税庁のサイトとe-Gov法令検索で取得したものです。

転勤の引っ越し費用は、誰が払うことになっていますか

法律には、転勤の引っ越し費用を会社が負担しなければならないという定めはありません。負担するかどうか、いくらまで出すかは、勤め先の就業規則や旅費規程で決まります。
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を義務づけ、そこに書く事項を10号にわたって並べています。始業と終業の時刻、賃金の決定・計算・支払の方法、退職に関する事項は必ず書きます。退職手当、臨時の賃金等、労働者に食費や作業用品の負担をさせる定め、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰と制裁は「定めをする場合においては」書きます。
赴任旅費や引っ越し費用は、このどこにも名指しされていません。位置づけとしては第10号の「前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項」にあたります。つまり定めがあれば書く、定めが無ければ書かなくてよいものです。
だから「転勤の引っ越し費用はいくら」という一般的な答えは存在しません。先に見るのは相場表ではなく、自分の会社の規程です。

規程を見るときに確かめる3つ

確かめる項目は、税法が挙げている費目にそろえると漏れません。
確かめることなぜ効くか
会社が業者を手配するのか、自分で手配して精算するのか自分で手配する形なら、業者選びの差がそのまま手元に残ります
上限額があるのか、実費なのか上限つきなら、超えた分は自分の負担になります
何が対象か(運賃・宿泊料・移転料のどこまでか)所得税法が非課税として挙げている費目と同じ区分です

会社が出した引っ越し費用に、税金はかかりますか

原則としてかかりません。所得税法第9条第1項第4号が、転任に伴う転居のための旅行に必要な支出に充てるため支給される金品を、非課税所得として挙げています。
給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行するため旅行をし、若しくは転任に伴う転居のための旅行をした場合又は就職若しくは退職をした者若しくは死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合に、その旅行に必要な支出に充てるため支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるもの
(所得税法第9条第1項第4号。e-Gov法令検索で2026年9月11日に取得)
この号は転勤だけの話ではありません。就職に伴う転居も、退職に伴う転居も、同じ号に並んでいます。入社のときに会社が出した引っ越し代も、退職して社宅を出るときの引っ越し代も、この条文の対象です。

「通常必要」かどうかは、2つのものさしで判定されます

範囲を決めているのは所得税基本通達9-3です。非課税になるのは、運賃・宿泊料・移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、旅行の目的、目的地、行路や期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品です。そのうえで、判定にあたって次の2つを勘案するとしています。
  1. その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか
  1. その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか
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見られているのは会社の基準であって、あなたの引っ越しの中身ではありません。
社内で役職ごとに極端な差があるか、同業同規模の水準から外れているか、が判定の材料です。
高いプランを選んだから課税される、という作りにはなっていません。

通常必要を超えた分は、どうなりますか

超えた部分が消えてなくなるわけではありません。所得税基本通達9-4が、超えた部分をどの所得に入れるかを、旅行の区分ごとに決めています。
旅行の区分超えた部分の所得区分
給与所得者が勤務する場所を離れて職務を遂行するためにした旅行(出張)給与所得
給与所得者が転任に伴う転居のためにした旅行(転勤)給与所得
就職をした者が就職に伴う転居のためにした旅行(入社)雑所得
退職をした者が退職に伴う転居のためにした旅行(退職)退職所得
死亡退職をした者の遺族が、その転居のためにした旅行退職所得(所得税法第9条第1項第17号により非課税)
同じ「引っ越し代をもらいすぎた」でも、行き先が3つに分かれます。
  • 転勤は給与所得です。給与と同じ扱いなので、勤務先の源泉徴収を通ります
  • 入社は雑所得です。給与としては扱われません
  • 退職は退職所得です。退職金と同じ枠で計算されます
※ 実際に課税されるかどうかは、支給額・規程の内容・その年の他の所得によって変わります。自分のケースで判断が要るときは、勤務先の経理か所轄の税務署に確認してください。

自分で業者を選べるときは、何を見ればよいですか

上限つきの精算や定額の支給なら、業者選びの差はそのまま自分の手元に残ります。転勤は辞令から引っ越しまでが短く、しかも日程が動きやすいので、見積もりを取る前に次を決めておくと後で揉めません。
  • 荷物を出せる日と、入れる日(鍵の受け渡し日が先に決まっていないと日程は組めません
  • 会社が求める領収書の宛名と但し書き
  • 上限に含まれる費目(運賃・宿泊料・移転料のどこまでか)
業者を比べる順番は、こちらに整理しています。
単身で動くときの金額は、相場表では説明がつきません。何で決まるのかはこちらです。

日程が動いたときに、費用はどうなりますか

辞令の日付は動きます。見積もりを取ったあとに日程が変わったとき、金額が上がる方向には条件が付いています。
4月の異動に合わせると、荷物が動くのは3月に集中します。時期そのものが金額を動かす月です。

単身赴任のとき、住民票は移しますか

判断の基準は「生活の本拠がどちらか」です。民法第22条は「各人の生活の本拠をその者の住所とする」と定めています。単身赴任だから移す、あるいは移さない、という一律の決まりではありません。
届出の期限は住民基本台帳法にあります。
届出期限条文
転入届(別の市区町村から移ってきたとき)転入をした日から14日以内第22条
転居届(同じ市区町村の中で移ったとき)転居をした日から14日以内第23条
転出届(その市区町村から出るとき)あらかじめ第24条
赴任先が生活の本拠になるなら移す、週末ごとに家族のもとへ戻り本拠が変わらないなら移さない、という筋道です。
※ 実際の取り扱いは市区町村の判断によります。単身赴任手当や社宅の条件が住民票の所在と結びついていることもあるので、勤務先にも確認してください。
手続きそのものは、オンラインで進められる部分があります。
海外への赴任は扱いが変わります。滞在が1年以上になるかどうかが分かれ目です。
電気・ガス・水道の手続きは、引っ越しの日程が決まった時点で並行して進みます。

よくある質問

転勤の引っ越し費用は、会社が全額出すのが普通ですか。
「普通」を決めている法律はありません。労働基準法第89条が就業規則に書けと定めている事項に、赴任旅費は名指しで入っていないからです。全額の会社も、上限つきの会社も、定めの無い会社もあり得ます。確かめる先は相場表ではなく、自社の就業規則と旅費規程です。
会社からもらった引っ越し費用は、源泉徴収票に載りますか。
通常必要と認められる範囲内であれば、所得税法第9条第1項第4号により非課税なので、課税の対象にはなりません。範囲を超えた部分だけが、所得税基本通達9-4に従って所得に算入されます。転勤の場合、その超えた部分は給与所得です。
引っ越し代を多めにもらって、余った分を自分のものにしても大丈夫ですか。
税の扱いとしては、通常必要と認められる範囲を超えた部分が給与所得になります。範囲の判定は、あなたの使い方ではなく会社の支給基準(社内のバランスと同業同規模との比較)で行われます。精算の要否そのものは会社の規程の問題なので、規程を確かめてください。
入社のときの引っ越し費用と、転勤のときとでは何が違いますか。
非課税の根拠は同じ所得税法第9条第1項第4号です。違うのは超えた部分の所得区分で、転勤は給与所得、入社は雑所得になります(所得税基本通達9-4)。退職に伴う転居なら退職所得です。
会社が業者を指定してきたら、自分で選ぶことはできませんか。
会社が直接契約して支払う形なら、選ぶ場面そのものがありません。逆に立替えて精算する形や定額支給の形なら、上限の中で自分が選びます。どちらの形かは規程で決まるので、日程の調整より先に確かめてください。

まとめ

  • 転勤の引っ越し費用を会社が負担すべきという法律の定めは無い。労働基準法第89条の必要記載事項にも赴任旅費は名指しされていない
  • 会社が出した引っ越し費用は、所得税法第9条第1項第4号で非課税。転勤だけでなく就職・退職に伴う転居も同じ号に入っている
  • 「通常必要」の判定材料は、社内で適正なバランスが保たれた基準かと、同業種・同規模の他社の水準に照らして相当かの2つ(所得税基本通達9-3)
  • 超えた部分の所得区分は、転勤は給与所得、入社は雑所得、退職は退職所得(所得税基本通達9-4)
  • 自分で手配する形なら、荷物を出せる日・領収書の宛名・上限に含まれる費目の3つを先に決める
  • 単身赴任で住民票を移すかどうかは、生活の本拠がどちらかで決まる(民法第22条)。転入届と転居届は14日以内、転出届はあらかじめ(住民基本台帳法第22条・第23条・第24条)

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※ 本記事の条文は2026年9月11日に国税庁のサイトとe-Gov法令検索で取得したものです。税法と通達は改正されます。個別の課税関係は支給額・規程・その年の所得の状況によって変わるため、判断が要るときは勤務先の経理または所轄の税務署にご確認ください。