退去時の床の傷は、フローリングの部分補修なら何年住んでも減額されません|カビ・焦げ・へこみの負担区分を国交省ガイドラインで整理
この記事を読むと分かること
- フローリングの部分補修は、何年住んでも経過年数で減額されないこと(国土交通省ガイドラインの考え方)
- クッションフロア・カーペット・畳床は6年で残存価値1円、畳表は消耗品扱いで年数を考慮しないこと
- カビ・焦げ・へこみ・引っかき傷が、ガイドラインの区分ではどちらの負担になるか
- 請求の面積は「最低限の施工単位」までで、色合わせ・模様合わせは借主の負担ではないこと
退去の立会いで、床の傷やシミを指摘されることがあります。壁紙なら「6年住めば1円」という話を聞いたことがあっても、床は同じようにいきません。
床は素材によって扱いが分かれていて、フローリングの部分補修だけは、住んだ年数に関係なく減額されません。どの傷が借主の負担になり、どこまでの面積を払うのかを、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」と東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」に沿って整理します。
床の退去費用は、素材によって経過年数の扱いが違います
国土交通省のガイドラインの別表2では、床の補修費用のうち借主が負担する割合を、素材ごとに次のように決めています。
| 床の素材・工事 | 経過年数の扱い | 借主の負担単位 |
|---|---|---|
| フローリングの部分補修 | 考慮しない(何年住んでも減額されない) | 原則㎡単位。毀損が複数箇所なら居室全体 |
| フローリング全体の張替え(全体にわたる毀損があるとき) | 建物の耐用年数で残存価値1円となる割合で計算 | 居室全体 |
| クッションフロア・カーペット・畳床 | 6年で残存価値1円となる割合で計算 | 毀損が複数箇所なら居室全体 |
| 畳表 | 考慮しない(消耗品に近いため) | 原則1枚単位 |
※ 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」別表2「賃借人の原状回復義務等負担一覧表」の記載に基づく(2026年10月14日取得)。東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」第4版(令和4年12月)も同じ扱いです。
ここで言う「借主の負担」は、借主の故意・過失や、通常の使い方を超える使い方でついた傷や汚れに限った話です。普通に暮らしていてできた傷みは、そもそも貸主の負担です。
フローリングの部分補修は、なぜ年数を引いてもらえないのですか
フローリングの部分補修に経過年数を考慮しない理由を、ガイドラインは次のように説明しています。
- フローリングは建物と同じく長く使う部位で、部分的に直しても、床全体の価値が上がるわけではない(つぎはぎの状態になる)
- だから補修費用を借主が全額負担しても、貸主が得をすることにはならない
- 逆に形式的に年数で減額すると、貸主が費用の負担を強いられて不合理になる
そのうえで、フローリング全体にわたる毀損で床全体を張り替えた場合は、経過年数を考慮するのが適当としています。この場合の年数は6年ではなく、その建物の耐用年数です。
「6年以上住んだから床は1円」ではありません
6年で残存価値1円になるのは、クッションフロア・カーペット・畳床です。フローリングの部分補修は、10年住んでいても補修費用の全額が借主の負担になり得ます。
逆に、床全体の張替えを請求されたときは、建物の耐用年数を使って負担割合を計算しているかを確かめてください。
その傷やシミは、そもそも借主の負担ですか
経過年数の前に、まず「誰の負担か」が決まります。ガイドラインの別表1と修繕分担表では、床について次のように例示しています。
| 床の傷み | 負担 | ガイドラインの考え方 |
|---|---|---|
| 家具の設置による床・カーペットのへこみ、設置跡 | 貸主 | 家具を置くことは避けられず、置いたことだけによるへこみや跡は通常の使用による損耗 |
| 畳の変色、フローリングの色落ち(日照や建物の欠陥による雨漏りなど) | 貸主 | 日照は通常の生活で避けられず、構造上の欠陥は借主に責任がない |
| フローリングのワックスがけ | 貸主 | 物件の維持管理の意味合いが強い |
| 畳の裏返し・表替え(破損していないが、次の入居者のために行うもの) | 貸主 | 入居者の入れ替わりによる維持管理の問題 |
| カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビ(こぼした後の手入れ不足等の場合) | 借主 | こぼすこと自体は通常の生活の範囲だが、その後の手入れ不足で生じたシミやカビの除去は借主の負担 |
| 冷蔵庫下のサビ跡(サビを放置し、床に汚損等の損害を与えた場合) | 借主 | 拭き掃除で落ちる程度なら通常の生活の範囲。放置して床を傷めたら善管注意義務違反に当たる場合が多い |
| 引越作業等で生じた引っかきキズ | 借主 | 善管注意義務違反または過失に当たる場合が多い |
| フローリングの色落ち(借主の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの) | 借主 | 善管注意義務違反に当たる場合が多い |
※ 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」別表1および「賃貸人・賃借人の修繕分担表」の記載に基づく(2026年10月14日取得)。冷蔵庫下のサビ跡と引っかきキズについて、東京都のガイドラインは「畳・フローリングも同様」と添えています。
カビ・焦げ・キャスターの傷・色移りはどうなりますか
検索の多い傷みを、ガイドラインの記載に当てはめるとこうなります。
- カビ:ガイドラインが借主負担の例に挙げているのは、こぼした後の手入れ不足で生じたシミ・カビです。東京都のガイドラインも、借主が結露を放置したために拡大したシミやカビを借主負担の例に挙げています。分かれ目は「放置して広げたかどうか」です
- 焦げ:東京都のガイドラインは、タバコによる畳の焼け焦げを借主負担の例に挙げています。国土交通省のガイドラインに載っている裁判例でも、床やクッションフロアのタバコの焦げ跡は借主の負担とされました(次の章)
- キャスター付きの椅子の傷・へこみ:国土交通省・東京都のどちらのガイドラインにも、キャスターを名指しした項目はありませんでした。家具を置いたことだけによるへこみは貸主負担と明記されていますが、キャスターを転がしてついた傷が「置いたことだけ」に当たるかは書かれていません。争いになったときは個別の判断になります
- 色移り:ゴム製品などの色移りを名指しした項目も、どちらのガイドラインにもありませんでした。「通常の使い方の範囲か」で判断される部分です
※ 2026年10月14日に、国土交通省のガイドライン(再改訂版・全173ページ)と東京都のガイドライン第4版(全87ページ)の本文を「キャスター」「色移り」で検索し、該当する記載がないことを確認しています。
請求の明細でこれらの項目が借主負担になっていたら、「ガイドラインのどの区分に当てはめたのか」を聞いてください。
請求される面積は「最低限の施工単位」までです
傷が借主の負担だとしても、どこまでの面積を払うかには線があります。ガイドラインの別表2は、借主の負担単位を「可能な限り毀損部分の補修費用相当分となるよう限定的なもの」とし、補修工事が最低限可能な施工単位を基本にするとしています。
| 素材 | 借主の負担単位 |
|---|---|
| フローリング | 原則㎡単位(毀損が複数箇所にわたる場合は居室全体) |
| カーペット・クッションフロア | 毀損が複数箇所にわたる場合は居室全体 |
| 畳 | 原則1枚単位(毀損が複数枚にわたる場合はその枚数) |
※ 同ガイドライン別表2の記載に基づく(2026年10月14日取得)。
そして同じ別表に、いわゆる模様合わせ・色合わせについては、借主の負担とはしないと明記されています。傷が1か所なのに部屋全体の張替えを請求されたら、ここが確認の起点になります。
畳の表替え・裏返しの費用の目安は、こちらにまとめています。
裁判では、床の補修にいくらが認められたか
国土交通省のガイドラインには、敷金の返還をめぐる裁判例が収録されています。床に関わるものを3つ挙げます。いずれも平成の判決で、金額は当時のものです。
| 裁判例 | 床について認められた借主負担 |
|---|---|
| 伏見簡易裁判所 平成9年2月25日 | 借主の過失による床のタバコの焦げ跡を、借主の責めに帰すべき補修と認定(壁の黒い帯・畳の凹みと合わせた3点で14万9,860円)。貸主が求めた補修費用は36万8,490円 |
| 東京簡易裁判所 平成11年3月15日 | 冷蔵庫下のクッションフロア 3,675円と畳表1枚 6,300円の計9,975円だけを借主負担と認定 |
| 東京簡易裁判所 平成14年9月27日 | 借主がつけたクッションフロアのタバコの焦げ跡について、その部分の補修費用3,800円と残材処理費3,000円を借主負担と認定 |
※ 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」資料の裁判事例[事例10][事例12][事例18]の記載に基づく(2026年10月14日取得)。個別の事案についての判断であり、同じ傷なら同じ金額になるという意味ではありません。
3つとも、焦げやサビ跡がある部分の補修だけを借主負担とし、床全体の張替えまでは認めていません。
退去の前にやっておくこと
- 入居時の写真を探す。元からあった傷と区別できます。写真がなければ、入居時に出した確認書の控えを探してください
- 冷蔵庫を動かしたら、床のサビ跡を拭く。拭いて落ちる程度なら通常の生活の範囲です。放置した結果の汚損が借主負担になります
- 自分で補修材を使う前に、管理会社に聞く。補修でかえって範囲が広がると、施工単位も広がります
- 明細は「項目・単価・数量(㎡・枚)」で出してもらう。総額だけでは、施工単位や経過年数が正しいか確かめられません
- 納得していない書面にその場でサインしない。内訳を持ち帰って確かめたいと伝えてください
フローリングの傷を補修する方法と費用は、こちらで扱っています。
立会いでサインを求められたときの対応は、こちらにまとめています。
納得できない請求は、どこに相談しますか
話し合いで決まらないときは、お住まいの自治体の消費生活センターに相談できます。最寄りの窓口が分からなければ、消費者ホットライン「188」につなぐと、近くの消費生活センターなどを案内してもらえます。東京都内の物件なら、東京都住宅政策本部の不動産取引に関する相談窓口もあります。
掃除で落とせる汚れは、退去前に落としておく
ガイドラインが借主負担の例に挙げている床の汚れは、手入れ不足で広がったシミ・カビや、放置したサビ跡です。言い換えると、退去前に落とせるものは落としておくほど、指摘される項目は減ります。
退去日の直前に頼もうとしても、予約が取れません
ハウスクリーニングは、時期によっては希望日の1〜2か月先まで埋まっていることがあります。引っ越しの繁忙期と重なるとなおさらです。
頼むなら、引っ越し業者を押さえるのと同じタイミングで動いてください。「退去日が決まってから探す」では間に合わないことがあります。
東京ガスのハウスクリーニングは、東証プライム上場の東京ガス株式会社が運営しています。清掃技術の研修に加えてマナー研修にも合格したスタッフのみが派遣され、損害賠償保険にも加入しています。引っ越しの前後は自宅に人を入れる機会が多いので、この手の安心は軽くありません。
対応エリアは全国ではありません
中心は東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県です。加えて群馬県(前橋市、高崎市の一部、藤岡市の一部)と茨城県(龍ヶ崎市、取手市、牛久市、つくば市、つくばみらい市、阿見町、利根町)も対象です。
市区町村単位で区切られているので、申し込み前に住所が対象かを公式サイトで確認してください。
退去日を決めるには、引っ越し日を先に押さえる
退去日と引っ越し日がずれていると、掃除の時間が作れます。同じ日にすると、荷物を出したその足で立会いになり、床の状態を確かめる余裕もありません。
そして退去日を決めるには、引っ越し日を確定させる必要があります。3〜4月は業者の枠から先に埋まります。引っ越し料金には定価がなく、時期・荷物量・距離・作業条件で大きく変わるので、自分の条件で実額を取るほうが早いです。
| 優先したいこと | 向いている方法 | 受け入れること |
|---|---|---|
| 手間を減らして、厳選された数社で比べたい | HALESEE(ハレシー) | 比較できる社数は少なめ |
| とにかく多く比べて、できるだけ安くしたい | 引越し侍の一括見積もり | 電話とメールの本数 |
よくある質問
6年以上住んでいれば、フローリングの傷は払わなくてよいですか
いいえ。国土交通省のガイドラインでは、フローリングの部分補修は経過年数を考慮しません。借主の過失でついた傷なら、住んだ年数に関係なく補修費用が借主の負担になり得ます。6年で残存価値1円になるのは、クッションフロア・カーペット・畳床です。
家具を置いていた跡のへこみは払いますか
ガイドラインでは、家具の設置による床・カーペットのへこみや設置跡は貸主の負担の例に挙げられています。家具を置くことは避けられず、置いたことだけによるへこみは通常の使用による損耗という整理です。
傷は1か所なのに、部屋全体の張替えを請求されました
ガイドラインは、借主の負担を補修工事が最低限可能な施工単位に限るとしていて、フローリングは原則㎡単位です。色合わせ・模様合わせは借主の負担としないとも明記されています。毀損が複数箇所にわたる場合は居室全体となるので、明細で傷の箇所数と面積を確かめてください。
フローリングのワックスがけ代は払いますか
ガイドラインでは、フローリングのワックスがけは貸主の負担の例に挙げられています。物件の維持管理の意味合いが強い、という理由です。ただし契約書に特約がある場合はその内容が問題になるので、契約書の該当箇所を読んでください。
床のカビは借主の負担ですか
ガイドラインが借主負担の例に挙げているのは、こぼした後の手入れ不足で生じたシミ・カビや、結露を放置して拡大したカビです。放置して広げたかどうかが分かれ目になります。
まとめ
- フローリングの部分補修は、何年住んでも経過年数で減額されない
- 床全体を張り替えた場合は、建物の耐用年数で負担割合を計算する
- クッションフロア・カーペット・畳床は6年で残存価値1円。畳表は消耗品扱いで年数を考慮しない
- 家具のへこみ・日照の色落ち・ワックスがけは貸主の負担
- 手入れ不足のシミ・カビ、放置したサビ跡、引越作業の引っかき傷は借主の負担の例
- キャスターの傷・色移りは、ガイドラインに名指しの項目がない
- 負担は最低限の施工単位まで。フローリングは原則㎡単位、色合わせ・模様合わせは借主の負担ではない
- 明細は項目・単価・数量で出してもらい、納得できなければ消費生活センターへ
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※ 本記事は国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」、東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」第4版、およびガイドラインに収録された裁判例に基づく一般的な解説です(2026年10月14日取得)。個別の事案の判断は契約内容と事実関係によって異なります。トラブルになった場合は、お住まいの自治体の消費生活センターや専門家にご相談ください。