アライグマの「致死率100%」は日本の話ではありません|動物の狂犬病は1957年が最後。本当に気をつけるのは噛まれることより糞です

この記事で分かること
  • 「致死率100%」は狂犬病の性質を指す数字で、日本のアライグマから測った数字ではないこと
  • ただし「日本のアライグマは安全」とも言えないこと。厚生労働省は「常に侵入の脅威に晒されている」と書いています
  • 農作物の被害額は令和6年度で6億9,251万円。これは農作物だけの数字で、家屋の被害額ではないこと
  • 実際に手を触れる危険があるのは糞のほうで、その虫卵は消毒薬ではほとんど死なないこと
アライグマの記事や番組では、「噛まれると致死率100%の感染症にかかるおそれがある」という言い方をよく見かけます。この100%という数字自体は、公的な資料に実在します。ただし、それが何の数字なのかを確かめずに読むと、危険の場所を取り違えます。
先に結論を書きます。100%は狂犬病という病気の性質を指す数字で、日本のアライグマから測った数字ではありません。日本国内では、動物の狂犬病は昭和32年(1957年)の猫での発生を最後に確認されていません(厚生労働省「狂犬病に関するQ&A」・2026年9月10日確認)。そのうえで、この記事では「では何に気をつければよいのか」を、公的資料だけで並べ直します。結論を先に言うと、噛まれることよりも、庭や屋根裏に残された糞のほうが現実的な問題です。

「致死率100%」は何の数字ですか

狂犬病という病気の致死率です。厚生労働省の「狂犬病に関するQ&A」は、Q1で「人も動物も発症するとほぼ100%死亡します」と書いています。Q10ではさらに「狂犬病は一旦発症すれば効果的な治療法はなく、ほぼ100%の方が亡くなります」と書かれています。
つまりこの100%は、アライグマの危険度ではなく、狂犬病を発症した場合の致死率です。同じQ&Aは、感染したあとでもワクチンを連続して接種すれば発症を防げることも、あわせて書いています。世界全体では、世界保健機関(WHO)の推計で年間およそ5万9千人が狂犬病で亡くなっており、そのうち95%はアフリカとアジア地域の死亡者だとされています。
※ この節の引用はすべて厚生労働省「狂犬病に関するQ&A」(2026年9月10日確認)の本文表記です。

アライグマが「狂犬病を運ぶ動物」として挙がっているのは、どこの話ですか

同じQ&AのQ4に、地域別の主な感染源動物が並んでいます。アライグマが出てくるのは、アメリカとヨーロッパの欄です。
地域主な感染源動物として挙がっているもの
アジア、アフリカ犬、ネコ
アメリカ、ヨーロッパキツネ、アライグマ、スカンク、コウモリ、ネコ、犬
中南米犬、コウモリ、ネコ、マングース
アメリカでアライグマが狂犬病の主要な感染源であることは事実です。ただしそれは、その地域でウイルスが動物の間を回っているからです。日本国内では、人は昭和31年(1956年)を最後に、動物は昭和32年(1957年)の猫での発生を最後に、狂犬病の発生がありません。同じQ&Aは「現在、日本は狂犬病の発生のない国です」と明記しています。
輸入感染事例としては、昭和45年(1970年)にネパールからの帰国者で1例、平成18年(2006年)にフィリピンからの帰国者で2例、令和2年(2020年)にフィリピンからの入国者で1例が挙げられています。いずれも国外で犬に咬まれた事例です。

では、日本のアライグマは安全なのですか

そう言い切ることはできません。厚生労働省の狂犬病のページには、次の記述があります。
現在、日本では、犬などを含めて狂犬病の発生はありません。しかし狂犬病は、日本の周辺国を含む世界のほとんどの地域で依然として発生しており、日本は常に侵入の脅威に晒されていることから、万一の侵入に備えた対策が重要となっています。
同じページは、狂犬病予防法が施行されたあと「わずか7年という短期間のうちに狂犬病を撲滅するに至りました」とも書いています。日本に狂犬病がないのは、そもそも入ってこなかったからではなく、犬の登録と予防注射を続けてきた結果だという説明です。
この記事で書けるのは「日本では動物の狂犬病が1957年を最後に確認されていない」というところまでで、「日本のアライグマは安全である」とは書けません。野生動物に手を出さない、噛まれたら医療機関にかかる、という原則も変わりません。狂犬病があるかどうかとは別に、野生動物の口の中には他の細菌もいます。
厚生労働省のQ&Aにある「すぐに傷口を石けんと水でよく洗う」という手当ての説明は、狂犬病流行地域に渡航する人へ向けた注意として書かれているものです。国内で野生動物に噛まれたときの手順として同省が示したものではないので、この記事では手順としては扱いません。噛まれた場合は医療機関に相談してください。

アライグマの被害は「7億円」なのですか

農林水産省が公表している令和6年度の集計では、アライグマによる農作物の被害額は6億9,251万円です。よく見かける「7億円」は、この数字を丸めたものです。
作物被害額(万円)
野菜39,204
果樹21,335
イネ3,209
飼料作物2,560
いも類1,018
マメ類767
ムギ類236
雑穀222
工芸作物183
その他518
合計69,251
野菜と果樹だけで全体の87%を占めます。つまりこの7億円は、畑と果樹園で起きたことの集計です。
※ 農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和6年度)」参考1(単位:万円)を2026年9月10日に取得し、集計しました。都道府県からの報告に基づく数字です。

この統計は「家の被害」を含んでいますか

含んでいません。この集計は農作物の被害を対象にしたもので、屋根裏に住み着かれた、断熱材を荒らされた、天井にしみができた、といった住宅の被害は入っていません。
そして、アライグマによる家屋の被害額を全国で集計した公的な統計は、今回の調査では見つかりませんでした。農作物の数字だけが公表されているため、これを住宅の話に読み替えると、規模を取り違えます。7億円は畑の数字です。

それでも「増えている」ことは数字に出ています

同じ農林水産省の資料には、年度ごとの推移が載っています。単位は百万円です。
年度アライグマハクビシンタヌキ
平成12年度3645235
平成22年度352377187
令和2年度414434138
令和4年度452361135
令和5年度482365145
令和6年度693478159
令和5年度から令和6年度で、アライグマの被害額は43.8%増えています。平成12年度の36百万円と比べると、19倍を超えました。中型の獣のなかでハクビシンを明確に上回ったのは、令和6年度が初めてです。
なお、野生鳥獣による農作物被害の全国合計は令和6年度で187億5,300万円で、アライグマはそのうちの3.7%です。金額の規模でいえば、シカとイノシシが大部分を占める構図は変わっていません。
※ 農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和6年度)」参考3(単位:百万円)を2026年9月10日に取得し、集計しました。同資料には「ラウンドの関係で合計が一致しない場合がある」との注記があります。

家で気をつけるのは、噛まれることより糞です

住宅の側で現実的に問題になるのは、糞です。アライグマの糞には、アライグマ回虫という寄生虫の卵が含まれていることがあります。
国立健康危機管理研究機構の資料によると、この虫の卵は1匹の雌から1日あたり115,000個から179,000個という量で放出されます。そして卵は、出たばかりの状態では感染力を持ちません。
これらの虫卵が適当な温度条件のもとで11~14日経過すると卵内に感染幼虫が育ち、幼虫包蔵卵となり、これが病原体となる。
つまり、新しい糞をすぐ片付ければ間に合う、という時間の幅があります。逆に、庭の隅や屋根裏に何週間も置かれた糞は、その幅を過ぎています。
人が卵を飲み込んだ場合の症状も、同じ資料に書かれています。米国では1981年の初発例以来、重症の脳障害を起こした患者が少なくとも12例確認され、そのうち10例は6歳以下の小児で、3名が死亡しています。眼に移行した場合は網膜炎として発症し、視力障害が残り、失明することもあると書かれています。イヌ回虫やネコ回虫より重くなりやすい理由は、体内を移行する幼虫の大きさが、イヌ・ネコ回虫では0.5mm以下なのに対し、アライグマ回虫では2.0mm近くまで発育するためだと説明されています。

日本のアライグマは、この虫を持っているのですか

「持っていない」と現在形で書ける資料は見つかりませんでした。
同じ資料には「わが国では、人への感染事例は、現在まで報告されていない」「これらの『野生アライグマ』からはアライグマ回虫の寄生例は確認されていない」と書かれています。ただし、この記述は2002年10月現在のものです。ページの冒頭に「(IDWR2002年第42号掲載)」とあり、サイト自身も「更新作業中のため、ページの一部に古い情報が含まれる場合があります」と注記しています。
そして、この20年余りでアライグマの分布は大きく変わりました。同じ資料は当時の野生アライグマについて「全国の47都道府県のうち32都道府県で確認されている」と書いています。環境省の「アライグマ防除の手引き(令和7年3月改訂版)」では、沖縄県を除く全都道府県で生息が確認されている状況です。2002年の調査結果を、そのまま今日の話として読むことはできません。

消毒液をまいても、卵は死にません

ここが実務で一番効く事実です。同じ資料は、卵の処理について次のように書いています。
虫卵を死滅させるには薬剤は殆ど効果がなく、煮沸・焼却などの高温での処置のみが有効である。
アルコールや次亜塩素酸をかけて終わり、にはできないということです。同じ資料は、野生化したアライグマについて「直接の接触を避け、アライグマが糞をする場所には近づかない」ことを求めています。片付けるより、まず近づかない。これが公的資料の側の答えです。
糞の扱いそのものについては、屋根裏の動物に共通する注意を別の記事にまとめてあります。掃除機で吸ってはいけない理由もそちらです。

糞を見つけたときの順番

  1. 触らない、乾かさない。乾いた糞を掃いたり掃除機で吸ったりすると、粉が舞います
  1. どの動物のものかを確かめる。アライグマなのかハクビシンなのかタヌキなのかで、その後の扱いが変わります
  1. 屋根裏で見つけた場合は、侵入口を探す。糞がある場所は通り道です
  1. 自分で処理を続けるかどうかを、そこで決める
動物の特定については、足跡が最も分かりやすい手がかりです。アライグマの足跡は環境省の資料で「人の子供の手形のよう」と表現されています。
音だけで判断しようとすると外れます。屋根裏の音から相手を絞る手順は、こちらにまとめました。

屋根裏まで入られている場合は、駆除だけでは終わりません

糞がある場所は通り道です。追い出しても侵入口が残っていれば、また同じ場所に戻ります。
害獣プロテック(株式会社花光)は、関東・関西・東海・九州・北陸・中部・東北に対応する害獣駆除の会社で、アライグマも対応対象です。公式サイトでは調査・見積り完全無料、24時間365日受付とされています。同社が前に出しているのは駆除そのものではなく、ふさぐ工程のほうで、「捕まえたり追い出したりするだけではすぐに被害が再発してしまいます。そこで重要になるのが侵入経路封鎖による再発防止施工です」と書かれています。
※ 対応エリア・受付時間・保証の条件は害獣プロテックの公式サイトの公表内容に基づきます(2026年9月10日時点・編集部調べ)。料金は建物の状況によって変わるため、この記事では金額を書いていません。
糞の清掃と消毒までを料金に含んでいる会社を探す場合は、害獣駆除110番という選択肢もあります。全国対応・24時間365日受付で、公式サイトの料金表示は22,000円からです。
※ 料金・対応範囲は害獣駆除110番の公式サイトの公表内容に基づきます(2026年9月10日時点・編集部調べ)。実際の金額は現地調査のうえで決まります。

よくある質問

アライグマに噛まれたら狂犬病になりますか

日本国内では、動物の狂犬病は昭和32年(1957年)の猫での発生を最後に確認されていません。厚生労働省は「現在、日本は狂犬病の発生のない国です」と書いています。ただし同省は「日本は常に侵入の脅威に晒されている」とも書いており、安全だと断定はしていません。狂犬病とは別に、噛まれた傷そのものの手当てが必要なので、医療機関に相談してください。

アライグマの糞を自分で片付けてもいいですか

片付ける前に、乾かさないこと、掃かないこと、掃除機で吸わないことです。アライグマ回虫の卵は、薬剤ではほとんど死なず、煮沸や焼却といった高温の処置でしか死滅しないと国立健康危機管理研究機構の資料に書かれています。同じ資料は、野生化したアライグマについて「糞をする場所には近づかない」ことを求めています。屋根裏など量が多い場所は、自力で処理する前提を置かないほうが確実です。

アライグマ回虫は日本にいますか

現在形で答えられる公的資料は見つかりませんでした。国立健康危機管理研究機構の資料には「わが国では、人への感染事例は、現在まで報告されていない」とありますが、この記述は2002年10月現在のものです。同じ資料は当時の野生アライグマの分布を32都道府県としており、現在は沖縄県を除く全都道府県で生息が確認されています(環境省・令和7年3月改訂版)。前提が変わっているので、当時の調査結果を今日の話として読むことはできません。

農作物の被害が7億円なら、家の被害はもっと大きいのですか

分かりません。農林水産省の6億9,251万円という数字は農作物だけの集計で、住宅の被害は含まれていません。そして、アライグマによる家屋の被害額を全国で集計した公的な統計は、今回の調査では見つかりませんでした。農作物の数字から住宅の被害規模を推測することはできません。

見つけたアライグマを自分で捕まえてもいいですか

原則としてできません。鳥獣保護管理法により、狩猟による場合を除いて捕獲・殺傷・採取は原則禁止で、罰則は1年以下の懲役または100万円以下の罰金です。ただしアライグマは外来鳥獣なので、環境省の手引きは被害が発生していない段階でも捕獲許可を申請できるとしています。さらに、土地所有者自らが小型の箱わなで捕獲し、捕獲個体を適切に処分できる場合に限っては、狩猟免許がなくても申請が可能だと書かれています。賃貸住宅に住んでいる人は、この条件に当てはまりません。
※ 環境省「アライグマ防除の手引き(令和7年3月改訂版)」表2-1および本文の記載に基づきます。手続きの窓口と要件は自治体によって運用が異なります。

まとめ

  • 「致死率100%」は狂犬病を発症した場合の致死率で、日本のアライグマから測った数字ではない
  • 日本では動物の狂犬病が1957年を最後に確認されていない。ただし厚生労働省は「常に侵入の脅威に晒されている」と書いており、「安全」とは書けない
  • 農作物の被害額は令和6年度で6億9,251万円。野菜と果樹で87%を占め、家屋の被害額を集計した公的統計は見つからなかった
  • 住宅で現実的な危険は糞。アライグマ回虫の卵は1日115,000〜179,000個放出され、11〜14日で感染力を持つ
  • 卵は薬剤ではほとんど死なず、煮沸・焼却などの高温処置のみが有効。消毒して終わりにはできない

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鳥のフンでも、乾かしてから掃くと同じ問題が起きます。
※ 狂犬病に関する記述は厚生労働省「狂犬病に関するQ&A」および同省「狂犬病」(いずれも2026年9月10日確認)、農作物被害額は農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和6年度)」参考1・参考3(2026年9月10日取得)、アライグマ回虫に関する記述は国立健康危機管理研究機構「アライグマ回虫による幼虫移行症」(IDWR2002年第42号掲載・2026年9月10日確認)に基づきます。