住宅ローンの滞納で最初に失うのは、家ではなく分割で返す権利です|期限の利益を失うと団信が切れ、住宅を残せる期限は代位弁済から6か月です
この記事を読むと分かること
- 滞納して最初に失うのは家ではなく、分割で返す権利(期限の利益)であること
- 民法が定める期限の利益の喪失事由に「滞納」は入っておらず、一括請求はローン契約の取り決めで起きること
- フラット35の新機構団信は、期限の利益の喪失が解約事由にあたり、全額繰上償還請求期限日で保障が終わること
- 全額繰上償還請求を受けた債権は、住宅金融支援機構では債権回収会社に回収業務が委託されること
- 住宅を残したまま組み直せる期限は、保証会社が全額を払った日から6か月だと民事再生法に書かれていること
住宅ローンの返済が遅れ始めた方、あるいは遅れたまま連絡ができずにいる方に向けた記事です。「何か月で家を取られるのか」という順番ではなく、どの時点で何が切り替わるのかを、住宅金融支援機構の公開資料とe-Gov法令検索の条文だけで並べます(2026年9月24日確認)。個別の事情でどれが使えるかは法律の専門家が判断することなので、ここでは判定ではなく、公表されている決まりだけを置きます。
住宅ローンを滞納すると、最初に何を失いますか
滞納して最初に失うのは家ではなく、毎月の分割で返していく権利です。法律ではこれを期限の利益と呼びます。民法136条は「期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する」と定めており、3,000万円を35年かけて返すという取り決めそのものが、借りた側の利益として保護されています。
これが失われると、残っている元金の全額をいちどに請求されます。住宅金融支援機構はこれを全額繰上償還請求と呼んでいます。
民法が定める喪失事由に、滞納は入っていません
意外に思われるかもしれませんが、民法137条が挙げる期限の利益の喪失事由は次の3つだけです。
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
「返済が何か月遅れたとき」という項目はありません。では何回滞納すると一括請求されるのか。それは法律ではなく、借りたときに結んだローン契約の取り決めで決まります。だから金融機関ごとに違いますし、契約書を見ないと分かりません。
機構の資料からも、これが自動ではないことが読み取れます。任意売却の申出書が「機構が全額繰上償還請求を行っていないお客さま」用と、すでに行われた方用の2種類に分けられているからです。期限の利益は、時間の経過で消えるのではなく、請求という行為によって失われます。
※ 民法(e-Gov法令検索・令和8年6月24日施行版)136条・137条、住宅金融支援機構「任意売却パンフレット」(令和8年4月)1ページおよび任売書式1-2より(2026年9月24日確認・編集部調べ)。
期限の利益を失うと、団体信用生命保険はどうなりますか
フラット35の新機構団信は、期限の利益の喪失をもって保障が終わります。機構の任意売却パンフレットに、次のように書かれています。
借入申込日が平成29年10月1日以後のフラット35(買取型)を利用し新機構団信(「新3大疾病付機構団信」を含む。)に加入している場合は、期限の利益の喪失が債務弁済充当約款の解約事由に該当することから、全額繰上償還請求期限日をもって保障が終了(団信脱退)となります。
同じ注記は、借入申込受理日が令和2年10月1日以後で新機構団信(金利組込方式)に加入している場合についても置かれています。
ここは順番を誤解しやすいところです。団信が切れるのは家を売った日でも、競売が終わった日でもなく、全額繰上償還請求の期限日です。その日以降に借りた本人に万一のことがあっても、残った債務は保険では消えません。滞納の相談を先送りにすると、家の問題とは別に、家族に残る保障がひとつ減ります。
※ 住宅金融支援機構「任意売却パンフレット」(令和8年4月)1ページおよび任売書式1-1・1-2の注記より(2026年9月24日確認)。民間金融機関の団信の扱いは各社の約款によります。
返済先は、どこに変わりますか
全額繰上償還請求が行われると、請求してくる相手が変わります。住宅金融支援機構は、自らが行った個人向け融資のうち、全額繰上償還請求を行ったものと、機構に直接返済してもらっているものについて、管理回収業務の一部を債権回収会社に委託していると公表しています。
委託先として挙げられているのは4社です。
| 債権回収会社名 | 本社所在地 | 法務大臣営業許可の年月日 | 許可番号 |
|---|---|---|---|
| エム・ユー・フロンティア債権回収株式会社 | 東京都中野区本町 | 平成12年2月10日 | 第28号 |
| アルヒ債権回収株式会社 | 東京都港区港南 | 平成11年6月14日 | 第11号 |
| 株式会社住宅債権管理回収機構 | 東京都新宿区水道町 | 平成16年12月2日 | 第91号 |
| 三菱HCキャピタル債権回収株式会社 | 東京都港区新橋 | 平成13年4月24日 | 第48号 |
※ 住宅金融支援機構「委託先債権回収会社について(機構が行う個人向け融資)」(更新日2026年7月2日・2026年9月24日確認)。フラット35融資の委託先は別に案内されています。
見慣れない社名から通知が届いても、それだけで詐欺と決めつけないでください。法務大臣の営業許可を受けた債権回収会社は、許可番号を公表しています。逆に、ここに載っていない会社から「代わりに交渉する」と持ちかけられたときは、名称と許可番号を確かめる手がかりになります。
保証会社が代わりに払うと、借金は消えますか
民間の住宅ローンでは、保証会社が銀行に残債の全額を払います。これが代位弁済です。払ってもらった側の債務が消えるわけではありません。請求してくる相手が、銀行から保証会社に変わるだけです。
根拠は民法にあります。委託を受けた保証人は、主たる債務者に対して求償権を持ちます(459条1項)。そして弁済をした者は債権者に代位し(499条)、代位した者は「債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる」と定められています(501条1項)。
この「一切の権利」に抵当権が含まれます。家に設定されていた抵当権は消えず、保証会社が行使できる状態でそのまま移ります。代位弁済は、債務が軽くなる出来事ではなく、競売を申し立てられる相手が入れ替わる出来事です。
※ 民法(e-Gov法令検索・令和8年6月24日施行版)459条・499条・501条より(2026年9月24日確認)。
それでも住宅を残す方法はありますか
あります。個人再生で住宅資金特別条項を定める方法です。住宅ローンだけは約束どおり払い続け、そのほかの借金を圧縮する仕組みで、民事再生法の第10章に置かれています。
ただし期限があります。保証会社が保証債務の全部を履行した日から6か月を経過する日までに再生手続開始の申立てをしないと、この条項を使えません(民事再生法198条2項)。代位弁済の通知が届いてからの6か月が、家を残せるかどうかの分かれ目になるということです。
条件も条文に書かれています。
| 条文 | 決まっていること |
|---|---|
| 民事再生法198条2項 | 保証債務の全部を履行した日から6か月を経過する日までに再生手続開始の申立てをすること |
| 民事再生法199条2項2号 | 返済期間を延ばす場合、変更後の最終弁済期が当初の最終弁済期から10年を超えず、かつそのときの年齢が70歳を超えないこと |
| 民事再生法221条1項 | 小規模個人再生は、住宅ローンの額などを除いた再生債権の総額が5,000万円を超えないこと |
| 民事再生法202条2項3号 | 住宅の所有権や敷地を使う権利を失う見込みのときは、裁判所は再生計画を認可しない |
※ 民事再生法(e-Gov法令検索・令和8年5月21日施行版)より(2026年9月24日確認・編集部調べ)。適用できるかどうかは個別の事情によります。
機構自身も、返済方法の変更ではまかないきれない方に向けて「個人版民事再生法を利用する方法もあります。弁護士など法律の専門家にご相談されてはいかがでしょうか」と案内しています。滞納する前に使える返済方法の変更メニューについては、住宅ローンの月々10万円は、全国の中央値11.6万円より軽い返済額ですにまとめました。
任意売却は、どんな順番で進みますか
機構は、返済の継続が難しくなった場合に、競売より任意売却を勧めています。理由として挙げているのは、通常の不動産取引として売れるため競売より高値が期待できること、手続きに協力すれば売却代金から仲介手数料や抹消登記費用を控除できる場合があり延滞損害金の減額相談に応じられる場合もあること、引渡時期を調整しやすいことの3つです。
パンフレットに書かれている期限を並べると、こうなります。
| 場面 | 公表されている期間 |
|---|---|
| 申出書の提出から債権回収会社への委託まで | 通常3か月程度 |
| 媒介契約の締結後、契約書写とレインズ登録証写の提出 | 10営業日以内 |
| 購入希望者が現れてから抵当権抹消の可否が通知されるまで | 2週間程度 |
| 代金決済予定日等の報告書の提出 | 決済日の2週間(10営業日)前まで |
| 初回の媒介契約締結日から購入希望者が現れない場合 | 6か月を経過すると、任意売却を断念して競売手続に着手する場合がある |
※ 住宅金融支援機構「任意売却パンフレット」(令和8年4月)第2の1から10および「融資住宅等の任意売却」(更新日2026年4月1日)より(2026年9月24日確認)。
注意したいのが売出価格です。パンフレットは「当方が通知した価格未満での売出により購入希望者を見つけていただいても、抵当権抹消に応じることができない場合があります」と明記しています。早く売りたいからと独自に値を下げても、抵当権が外れなければ引渡しができません。媒介契約も専任媒介または専属専任媒介に限られています。
まだ全額繰上償還請求を受けていない段階で任意売却を申し出る場合、機構は実印を押した申出書(任売書式1-2)と、発行日から3か月以内の印鑑証明書の提出を求めています。この提出は自分から期限の利益を放棄する意思表示にあたり、残債務全額の繰上償還を催告されることになります。前の章のとおり、団信の保障もここで終わります。
任意売却が終われば、残りの借金は消えますか
消えません。パンフレットは「任意売却による返済金が債権額に満たない場合、破産免責となっている方を除き、お客さまの残債務の返済義務は残ります」としています。連帯保証人の義務も同じように残ります。
一方で、残った額をどう返すかは一律ではありません。機構は「任意売却後の返済計画は、お客さまの生活状況等を踏まえてお客さまとともに返済可能な金額を決定していきます」と書いています。売って終わりではなく、そこから改めて話し合いが始まるということです。
競売になると、いつ家を出ることになりますか
抵当権にもとづく競売(担保不動産競売)には、民事執行法188条によって強制競売の規定が準用されます。そこから読み取れることが2つあります。
ひとつは、差押えの効力が生じる時点です。46条1項は「差押えの効力は、強制競売の開始決定が債務者に送達された時に生ずる」とし、差押えの登記が送達より先にされたときは登記の時としています。開始決定が届いた日が、法律上の起点です。
もうひとつは、差し押さえられても住み続けられることです。46条2項は「差押えは、債務者が通常の用法に従つて不動産を使用し、又は収益することを妨げない」と定めています。差押えの登記が入った時点で退去を求められるわけではありません。
出ることになるのは、買受人が代金を納めたあとです。83条1項は、代金を納付した買受人の申立てにより、裁判所が債務者や占有者に引渡しを命じることができるとしています。同条2項は、この申立てを代金納付の日から6か月(買受けのときに抵当建物使用者が占有していた建物では9か月)を経過するとできなくなると定めています。
※ 民事執行法(e-Gov法令検索・令和8年5月21日施行版)46条・83条・188条より(2026年9月24日確認・編集部調べ)。
家計の組み立てから見直したい方へ
滞納が始まってからの手続きは、どれも期限で区切られています。動ける時間を増やせるのは、その手前の家計のほうです。
ファイナンシャルアカデミーの「お金の教養スクール」は、家計管理、ライフプラン、保険、住まい、税金、年金、定年後設計を全15回・22時間半で学ぶスクールです。住まいの回(vol.10「住まいと暮らしのマネープラン」)に、マイホーム予算の計算方法や住宅ローンの組み方・返し方が含まれています。中身を先に見たい場合は、無料体験セミナーから受けられます。特定の物件や金融機関を勧めるものではありません。
※ ファイナンシャルアカデミー公式サイト「お金の教養スクール」のカリキュラムより(2026年9月24日確認)。運営は株式会社FinancialAcademyです。
よくある質問
滞納1回でも一括請求されますか
民法137条が挙げる期限の利益の喪失事由は、破産手続開始の決定、担保の滅失・損傷・減少、担保を供する義務の不履行の3つで、返済の遅れは含まれていません。何回の遅れで一括請求に進むかは、借りたときのローン契約の取り決めによります。機構のサイト内では、月数を示した記載を確認できませんでした(2026年9月24日時点)。契約書か借入先への確認が必要です。
代位弁済の通知が届きました。もう住宅は残せませんか
民事再生法198条2項は、保証会社が保証債務の全部を履行した日から6か月を経過する日までに再生手続開始の申立てがされたときは、住宅資金特別条項を定めることができるとしています。通知が届いた時点で自動的に家を失うわけではありません。ただし期限があるので、日付を確かめたうえで早めに法律の専門家に相談してください。
差押えの登記が入ったら、すぐ出ていかなければなりませんか
民事執行法46条2項は、差押えは債務者が通常の用法に従って不動産を使用・収益することを妨げないと定めています。引渡しを命じられるのは、買受人が代金を納付して引渡命令を申し立てた場合です。申立てができるのは代金納付の日から6か月以内(抵当建物使用者が占有していた建物は9か月以内)とされています。
任意売却と競売は、どちらが先に来ますか
機構は任意売却を勧める立場を公表していますが、必要書類が速やかに提出されない場合や、初回の媒介契約締結日から6か月を経過しても購入希望者が現れない場合などには、任意売却を断念して競売手続に着手する場合があるとしています。並行して進む局面があるということです。
70歳を過ぎていますが、使える制度はありますか
機構の返済方法変更メニューには、満70歳以上等の方を対象としたシルバー返済特例が用意されています。適用できるかどうかは審査によります。手続きは返済中の金融機関への相談から始まります。
まとめ
住宅ローンの滞納で最初に失うのは、家ではなく分割で返す権利です。民法137条が定める喪失事由に返済の遅れは入っておらず、一括請求はローン契約の取り決めによって起こります。
その日を境に切り替わるものが3つあります。請求してくる相手が債権回収会社や保証会社に変わること、フラット35の新機構団信では全額繰上償還請求期限日をもって保障が終わること、そして住宅を残したまま組み直せる期限が、保証会社が全額を払った日から6か月に区切られることです。
早く動くほど選べる手が多く、遅れるほど減ります。残債は売却後も残り、連帯保証人の義務も残ります。数字と期限を確かめたうえで、借入先と法律の専門家に相談してください。
出典:住宅金融支援機構「任意売却パンフレット」(令和8年4月)、「融資住宅等の任意売却」(更新日2026年4月1日)、「委託先債権回収会社について(機構が行う個人向け融資)」(更新日2026年7月2日)、「月々の返済でお困りになったとき」(公開日2018年1月15日・更新日2026年4月1日)。民法・民事再生法・民事執行法はe-Gov法令検索の施行版。いずれも2026年9月24日に確認しました。ファイナンシャルアカデミーのカリキュラムは同社公式サイト(2026年9月24日確認)。