シロアリを駆除しても、食われた木材は元に戻りません|耐震診断では「劣化」として上部構造評点に係数が掛かります
シロアリの駆除は、木材を食べている虫を止める工事です。すでに食われて断面が減った木材が、駆除によって元の太さに戻ることはありません。薬剤と部材は、別の話です。
木造住宅の耐震診断では、この食害は「劣化」として扱われます。診断の結果は上部構造評点という数値で出ますが、劣化があるとその数値に1.0以下の係数(劣化低減係数)が掛かります。つまり評点は下がる方向にしか動きません。
ただし「シロアリが出たら評点が0.7になる」という話ではありません。0.7は係数の下限であって、自動的に当てはまる値ではないからです。
この記事では、耐震診断で食害がどう扱われるのか、そして駆除業者の点検とは別に用意されている蟻害・腐朽検査という制度を、自治体と業界団体の公表資料だけで並べます。
※ 耐震診断の助成制度や補助額は自治体ごとに違います。この記事で引用する新宿区のテキストは「診断の考え方」の出典であって、新宿区の制度を全国の話にするものではありません。お住まいの制度は、必ず自治体の窓口で確認してください。
駆除と、食われた木材の補修は別の工事です
シロアリ駆除は、薬剤などで加害を止める工事です。食われて細くなった土台や柱を元の断面に戻す工事は、そこには含まれていません。
この2つが別物であることは、業界団体の検査制度の作りにも表れています。公益社団法人日本しろあり対策協会の蟻害・腐朽検査制度では、検査士が作成する報告書に「要環境改善、部材交換、補修などの講ずべき対策」を提案すると説明されています。部材交換と補修が、環境改善とは別の項目として立っています。
さらに同制度の3次検査には、「被害材の残存強度推定のための試験」が例として挙げられています。食われた木材にどれだけ強度が残っているかは、駆除の有無とは別に測る対象だ、ということです。
※ 公益社団法人日本しろあり対策協会「蟻害・腐朽検査制度」(2026年9月22日取得)。
だから、駆除の見積書を受け取ったら、まず金額の前に項目を見てください。薬剤の処理だけなのか、木材の交換や添え木まで入っているのかで、工事の中身がまったく違います。
耐震診断では、シロアリの食害は「劣化」として扱われます
木造住宅の耐震診断は、上部構造評点(Iw)という数値で結果を出します。東京都耐震ポータルサイトは、一般診断法と精密診断法での判定を次のように示しています。
| 上部構造評点 | 判定 |
|---|---|
| 1.5以上 | 倒壊しない |
| 1.0以上〜1.5未満 | 一応倒壊しない |
| 0.7以上〜1.0未満 | 倒壊する可能性がある |
| 0.7未満 | 倒壊する可能性が高い |
※ 東京都耐震ポータルサイト「STEP1 耐震診断」、および和歌山県田辺市「木造住宅無料耐震診断」。いずれも2026年9月22日取得。どちらも同じ区分を掲げています。東京都のページは「建物が必要な耐震性能を満たすには、Iwが1.0以上である必要があります」と書いています。
分かれ目は1.0です。0.9と1.0の違いは、表の上では1段ぶんの違いになります。
劣化低減係数は、評点に掛け算で効きます
新宿区が耐震診断の登録員向けに配っているテキストは、劣化低減係数(dK)の出し方をこう定めています。
- dK =(1 − 劣化点数 / 存在点数)
- dK が0.7未満となった場合は0.7とする
- 築10年未満の建物は存在点数と劣化点数の対象範囲が少なくなる。ただし劣化が認められる場合は10年以上の建物と同等の対象範囲となる
集計する部位は、屋根葺き材、樋、外壁仕上げ、露出した躯体、バルコニー、内壁、床です。部位ごとに「存在するか」と「劣化しているか」を数えて、その比で係数を出します。
※ 新宿区「令和7年度新宿区耐震技術講習会テキスト 〜木造住宅の耐震診断と補強方法〜 耐震診断の手引き」令和7年7月・誌面11ページ(2026年9月22日取得)。
そして、その手引きは劣化部の写真を並べたページで、シロアリの食害を名指しで扱っています。
木材は生物材料であり、木材腐朽菌による腐朽やシロアリによる食害などが生じることがあります。建物の外観からは、劣化等が見受けられない場合でも、改修時に仕上げを引き剥がした時点で大きな劣化が確認される場合が少なくありません。補強改修時には劣化部の改善が大切です。また、防蟻・防腐対策もしっかり行いましょう。
※ 同テキスト 誌面12ページ。掲載されている劣化部の写真4点のうち1点に「シロアリ喰害」と説明が付いています。
同じページには補強の考え方も載っています。上部構造評点は「保有する耐力 ÷ 必要耐力」で決まるとしたうえで、保有する耐力を大きくする手段として、耐力壁の増設・壁配置バランスの改善と並べて「劣化部の補強改修」を挙げています。食われた部材を直すことは、耐震補強の手段のひとつです。
「シロアリが出たら0.7になる」わけではありません
0.7は、計算結果がそれを下回ったときに打ち止めにする下限です。被害が見つかった瞬間に0.7が当てはまる、という決まりではありません。実際、同じテキストの中でも、場面によって扱いが変わります。
| 場面 | 劣化低減係数の扱い |
|---|---|
| 一般診断法(計算) | dK=(1−劣化点数/存在点数)。0.7未満なら0.7とする |
| 一般診断法で補強設計を行う場合 | 劣化低減係数は0.9を上限とする |
| 新耐震木造住宅検証法 | 建物の状況に応じて0.7、0.85、0.9、1.0のいずれかを考慮する |
| 外観上の劣化が確認できない場合 | 少なくとも0.9程度は考慮しておくべき(テキストの見解) |
※ 同テキスト 誌面4ページ・11ページ・35ページ・41ページ(2026年9月22日取得)。新耐震木造住宅検証法は、主に2000年までに建てられた新耐震基準の木造住宅を簡易に検証するための方法で、一般診断法とは別の手続きです。
いちばん下の行が、この記事の主題に重なります。
たとえ外観上の劣化が生じていない場合でも、壁内部で腐朽やシロアリ被害などが起きていることはよくあります。このようなことから、外観上の劣化がない場合であっても、少なくとも0.9程度の劣化低減係数は考慮しておくべきと考えられます。
※ 同テキスト 誌面41ページ。
つまり、被害が見つかったかどうかで決まるのではなく、どこがどれだけ劣化しているかを数えた結果が数値になります。「駆除したから大丈夫」も「出たからもう駄目だ」も、診断の考え方とは合いません。
床下は、耐震診断でも見る場所です
耐震診断の現地調査では、1階の床下に入ります。しかもその入り口は、多くの家でシロアリ駆除のために作られた点検口です。新宿区のテキストは、1階床下の調査について、床下収納や和室などにあるシロアリ駆除のための点検口から行うと説明しています。
そのうえで、床下には駆除剤が施されている場合があるため、駆除を実施した時期などを依頼者に確認し、必要に応じた防護体制を整えて調査するように、と書かれています。ここから、読者側でやっておけることが1つ決まります。
- 駆除をした日付
- 使われた薬剤の名前
- 施工した会社名と、保証書の期間
この3つをまとめておくと、耐震診断を受けるときにそのまま答えられます。駆除の書類は、駆除だけの書類ではありません。
床下で見ているのは、床組の状態(劣化の有無)、床束への根がらみ貫の有無、そして基礎の種別(べた基礎・布基礎・玉石基礎)とひび割れなどの劣化状況です。土台・大引・根太・床板が確認でき、シロアリの蟻道が見つかることもある場所だとされています。
※ 新宿区の同テキスト 誌面20ページ(2026年9月22日取得)。
同じテキストは、浴室についても、木材腐朽菌やシロアリによる被害を受けやすい場所だと書いています(誌面23ページ)。タイルの割れから水が壁の中へ入るためです。床下と浴室は、シロアリの話と耐震の話が同じ場所を見ている数少ない接点です。
なお、専門家向けのテキストでさえヘルメット着用と防護体制を指示している場所です。自分で潜って確かめようとせず、写真が欲しいなら点検に来た業者に「どこを撮ったのか分かる形で」頼んでください。
駆除業者の点検と、蟻害・腐朽検査は別の制度です
被害の範囲や、残っている強度をきちんと知りたい場合には、駆除とは別に検査を頼むという選択肢があります。公益社団法人日本しろあり対策協会が平成14年から運営している蟻害・腐朽検査制度です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 検査する人 | 協会認定の蟻害・腐朽検査士。全国に約1,000名が登録 |
| 検査対象 | 既存住宅 |
| 診断対象 | シロアリ、腐朽、カビ、変色の兆候、湿気・通風状態など |
| 診断方法 | 目視・打診・触診・圧入検査などの非破壊検査、および床下温湿度・通風状況・床下地盤面の含水状況・木質部含水率などの環境検査 |
| 報告 | 協会が定めた様式の報告書。協会の検査規定に沿うと認定された検査には蟻害・腐朽検査証を発行 |
※ 公益社団法人日本しろあり対策協会「蟻害・腐朽検査制度」(2026年9月22日取得)。対象となるシロアリはヤマトシロアリ、イエシロアリ、アメリカカンザイシロアリ、ダイコクシロアリの4種と明記されています。平成28年に、建築士・木造建築士も資格を取得できるよう制度が改正され、名称が蟻害・腐朽検査員から蟻害・腐朽検査士に変わりました。
検査は、事前検査(設計図書の確認と聞き取り)、建物変状検査(屋根の波うち、床のたわみなど)、1次蟻害腐朽検査(外壁木部・軒裏、室内、小屋組・天井、床下)、報告書の作成という順で進みます。床下では、柱脚部・筋かい下部・土台・床組材・基礎・束石・床下土壌を見るとされています。
そのうえで、任意のオプションが2つあります。
- 2次蟻害腐朽検査 … 隠れた部分の被害が疑われる場合に、仕上材をはがすといった局部的な破壊を伴って行う検査
- 3次蟻害腐朽検査 … 腐朽菌の菌種を同定するための培養診断や、被害材の残存強度推定のための試験など
「食われた木材にどれだけ強度が残っているか」を正面から扱うのは、3次の段階です。駆除の見積もりに出てくる話ではありません。
※ 検査の費用については、協会が全国一律の料金を公表している資料を確認できませんでした。金額は検査士や建物の条件によります。
見積もりと報告書で確かめること
ここまでを、依頼するときの確認項目に落とすと次のようになります。
| 確かめること | なぜ |
|---|---|
| 見積書で、薬剤の処理と木材の交換・補修が分かれているか | 駆除は加害を止める工事で、断面が減った部材は戻らないため |
| 保証が何に対する保証か | 再発に対する保証と、構造の補修は別のものだから |
| 床下の写真を、場所が分かる形でもらえるか | あとから耐震診断や別の業者に見せる資料になるため |
| 駆除の日付・薬剤名・施工会社を控えたか | 耐震診断の現地調査で、調査する側から聞かれる項目だから |
| その場で契約を求められていないか | 訪問してきた業者との契約には、やり直せる期間があるため |
最後の行を補足します。訪問販売にあたる契約なら、書面を受け取った日を1日目として8日以内はクーリング・オフができます。急がされていると感じたら、まず日を置いてください。
よくある質問
シロアリ被害があると、耐震診断の点数はどれくらい下がりますか
一律には決まりません。劣化低減係数は「1 − 劣化点数 ÷ 存在点数」で計算され、屋根葺き材から床までの部位ごとに劣化の有無を数えた結果で決まります。0.7未満になった場合は0.7とすると定められているので、これが下限です。被害が見つかったから自動的に0.7になる、という仕組みではありません。
駆除をすれば、耐震の評点は元に戻りますか
戻りません。劣化低減係数は劣化の有無で決まるため、食われた部材が残っていれば劣化として数えられます。新宿区のテキストは、上部構造評点を上げる手段として「劣化部の補強改修」を挙げています。評点の側から見ると、効くのは薬剤ではなく部材の改修です。
蟻害・腐朽検査は、駆除業者に頼むのとどう違いますか
蟻害・腐朽検査は、協会が認定した蟻害・腐朽検査士が、協会の定めた様式の報告書で結果を返す検査制度です。検査項目と報告書の様式が協会で決まっているため、検査した人による差が出にくい作りになっています。駆除そのものを行う工事とは別のサービスです。
耐震診断はどこに頼めばいいですか
多くの自治体が、木造住宅の耐震診断について窓口と助成制度を設けています。診断を行う登録員の名簿を持っている自治体もあります。助成の有無・金額・対象となる建築年は自治体ごとに違うので、まずお住まいの自治体の建築担当課に問い合わせてください。
床下の写真を見せられて「このままでは地震で倒れる」と言われました
その場で契約しないでください。上部構造評点は、床下の1枚の写真では出ません。屋根の重さ、壁の位置と仕様、基礎の種別、劣化の集計をすべて足して計算するものです。倒壊の可能性を判定できるのは耐震診断であって、床下の点検ではありません。
まとめ
- シロアリ駆除は加害を止める工事で、食われて断面が減った木材が元に戻る工事ではない
- 木造住宅の耐震診断では、食害は「劣化」として扱われ、上部構造評点に1.0以下の劣化低減係数が掛かる
- 係数は(1 − 劣化点数 ÷ 存在点数)で計算し、0.7未満なら0.7とする。0.7は下限であって、被害が出たら自動的に当てはまる値ではない
- 新宿区のテキストは、外観上の劣化がない場合でも少なくとも0.9程度は考慮すべきとしている
- 耐震診断の床下調査は、シロアリ駆除のための点検口から入る。駆除の日付と薬剤名は、そのときに聞かれる
- 被害の範囲や残っている強度を知りたいなら、日本しろあり対策協会の蟻害・腐朽検査という別の制度がある
駆除の見積もりを見るときは、金額の前に項目を見てください。薬剤だけなのか、部材まで入っているのか。そこが分かれていない見積書は、比べようがありません。
相談先
シロアリ110番
シロアリ駆除の受付窓口です。加盟している業者の中から対応できるところを手配する仕組みで、現地調査と見積もりの依頼ができます。対応の可否は地域によるので、依頼のときに確認してください。
依頼するときに伝えることは1つです。薬剤の処理と、食われた部材の補修を、見積書で分けて出してほしい、と先に言ってください。分けて出せるかどうかで、その業者が構造の話をどこまで扱うかが見えます。
※ 料金は建物の広さ・被害の範囲・工法で変わります。金額は必ず現地調査のあとの見積書で確認してください。