引っ越しの荷造りはどこまで自分でやるべきか|約款で決まっている責任の線引き

この記事を読むと分かること
  • 約款では荷造りは原則として利用者の義務で、「自分でやると安くなる」の構造がそもそも逆であること
  • 運送に適さない荷造りだと、当日に費用が発生しうること
  • 荷物が壊れたときの立証責任は事業者側にあるが、荷造りが原因なら免責になりうること
引っ越しを安くする方法として、「荷造りを自分でやる」は確実に効きます。各社のプランも、荷造りと荷解きを誰がやるかで分かれています。
ただし国土交通省の標準引越運送約款を読むと、この話の構造は少し違って見えます。そして、自分で荷造りしたものが壊れたときの責任についても、条文で線が引かれています。ここを知ってから決めてください。

約款では、荷造りは原則として利用者の義務です

標準引越運送約款の第7条には、こう書かれています。
第7条(荷造り)
「荷送人は、荷物の性質、重量、容積、運送距離等に応じて、運送に適するように荷造りをしなければなりません。」
「当店は荷送人からの申込みに応じて、荷送人の負担により必要な荷造りを行います。」
— 国土交通省 標準引越運送約款より
「荷送人」は荷物を送る人、つまり引っ越す本人です。
つまり構造はこうなります。
よくある理解約款上の構造
荷造りを自分でやると割引になる荷造りはもともと自分の義務で、業者に頼むとその分の費用がかかる
どちらでも払う額は同じですが、受け止め方が変わります。「自分でやれば安くなるお得な選択」ではなく、「本来やることを業者に代わってもらう分が上乗せされている」という理解のほうが、見積もりの読み方として正確です。
だから各社のプランは、荷造りと荷解きの担当で分かれているわけです。

運送に適さない荷造りだと、当日に費用が発生しうる

同じ第7条には、続きがあります。
「当店は、荷物の荷造りが運送に適さないときは、荷送人に対し必要な荷造りを要求し、又は荷送人の負担により必要な荷造りを行います。」
— 国土交通省 標準引越運送約款より
「これでは運べません」は、その場で費用になり得ます
自分で荷造りをして安く見積もったのに、当日に「運送に適さない」と判断されると、業者が荷造りをやり直し、その費用は利用者の負担になり得ます。
節約したつもりが、当日に上乗せされる形です。安くするために自分でやるなら、運べる状態に仕上げるところまでが条件だと考えてください。
具体的には、フタが閉まらない箱、重すぎて持てない箱、中身が動く箱が典型です。詰め方の話は後半でまとめます。

壊れたときの責任はどうなるか

ここは知っておく価値があります。まず、利用者に有利な規定があります。
第22条(責任と挙証等)
「当店は、荷物の受取(荷造りを含む。)から引渡し(開梱を含む。)までの間にその荷物その他のものが滅失し若しくは損傷し、若しくはその滅失若しくは損傷の原因が生じ、又は荷物が遅延したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負います。ただし、当店が、自己又は使用人その他運送のために使用した者が、荷物の荷造り、開梱、受取、引渡し、保管及び運送について注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りではありません。」
— 国土交通省 標準引越運送約款より
立証責任は事業者側にあります。利用者が「業者の不注意でした」と証明する必要はなく、業者が「注意を怠らなかった」と証明できなければ賠償するという組み立てです。これは知らないと損をします。
ただし、免責の規定もあります。
第23条(免責)第8号
「荷送人又は荷受人等の故意又は過失」
— 国土交通省 標準引越運送約款より
つまり、利用者側の過失によって生じた損害は、事業者は責任を負いません。
状況どう扱われる可能性が高いか
業者が運搬中に落とした事業者が「注意を怠らなかった」と証明できなければ賠償
自分の荷造りが不十分で中身が割れた利用者の過失として免責になり得る
業者が荷造りした荷物が壊れた荷造りも事業者の作業に含まれる
※ 標準引越運送約款の条文に基づく一般的な整理です(最終改正 令和7年国土交通省告示第193号・2026年9月19日に条文を確認)。実際の判断は個別の事実関係によります。また事業者によっては独自の約款を使用している場合があるため、契約時に確認してください。
これが「割れ物は業者に任せたほうがいい」の実質的な理由です。自分で包んだ食器が割れた場合と、業者が包んだ食器が割れた場合では、立場が変わります。

家屋の床や壁に付いた傷は、荷物とは別の扱いになります

引越作業中に家屋(床・壁・据付け家具や家電)に付いた傷については、標準引越運送約款に賠償の定めがなく、民事として話し合いで取り扱われます。全日本トラック協会が公表している「引越に係るQ&A」(令和8年2月版・2026年9月19日確認)に、そう書かれています。
「引越作業中に、家屋の破損(床や壁、据付け家具・家電などの傷)等に対しては、約款で、引越事業者の責任の有無についての記載がありますが、賠償については、約款での記載はありません。」
— 全日本トラック協会「引越に係るQ&A」(令和8年2月版)より
条文を並べると、この構造が見えます。責任を定めた第22条は「その荷物その他のもの」と書いていますが、賠償の額を定めた第26条は「荷物の滅失又は損傷により直接生じた損害」としか書いていません。家屋そのものは、賠償の額を決める条文の外にあります。
壊れたもの約款での扱い
運んでもらった荷物(家具・家電・食器など)第22条で責任、第26条で賠償の額まで定めがある
家屋の床・壁・据付け家具・据付け家電責任の有無についての記載はあるが、賠償についての記載がない
※ 賠償されない、という意味ではありません。民事として、法令または慣例により取り扱われるということです。ただし条文を示して求める形にはならないため、当日の記録が残っているかどうかで進み方が変わります。

傷は、荷物を動かす前と後の両方で確認する

同じQ&Aは、引越当日にやることとして、家屋の傷の確認を4回挙げています。
  • 搬出地で、荷物を運び出す前に、家屋(床・壁)の傷を事業者と確認する
  • 搬出地で、荷物を全て運び出した後に、もう一度確認する
  • 搬入地で、荷物を運び入れる前に、新居の家屋(床・壁)に傷がないか事業者と確認する
  • 搬入地で、搬入作業が終わったら、もう一度確認する
前と後を対にしておくと、「その傷は引っ越しの前からあったのか」が分かれ目になりにくくなります。作業が終わってから言い出すより、始まる前に一緒に見ておくほうが早く済みます。

新築なら、見積もりの時点で伝える

新築の家や、いずれ貸主に返す部屋で傷を付けたくない場合は、見積もりの時点で家屋の状態と、養生(保護)についての要望を伝えます。養生をする場合はそれに伴う費用がかかる場合があるため、見積書で確認してください。当日になって頼むと、作業時間と費用の両方が動きます。

賠償は、新品に取り替えてもらうことではありません

運んだ家具が壊れたときの賠償は、引っ越しの直前の状態に戻すための修理が慣例で、修理が難しい場合は、購入した時からの経過期間をもとにした時価相当額での金銭賠償になることがあります(全日本トラック協会「引越に係るQ&A」令和8年2月版・2026年9月19日確認)。
約款の第26条も「荷物の滅失又は損傷により直接生じた損害を賠償します」と書いており、買い直しの費用を賠償すると書いてあるわけではありません。10年使った家具なら、10年ぶんの経過を織り込んだ額が基準になります。
※ 修理にするか金銭賠償にするかを含めて、損害賠償の内容は民事であり、法令または慣例により双方の話し合いが基本になる、と同協会は説明しています。

そもそも運んでもらえないものがある

約款では、事業者が受取を拒絶できるものが定められています。
第4条第2項
「現金、有価証券、宝石貴金属、預金通帳、キャッシュカード、印鑑等荷送人において携帯することのできる貴重品」
「火薬類その他の危険品、不潔な物品等他の荷物に損害を及ぼす恐れのあるもの」
— 国土交通省 標準引越運送約款より
「荷送人において携帯することのできる貴重品」という表現がポイントです。自分で持てるものは自分で持ってください、ということです。
段ボールに入れて出してしまうと、紛失しても補償の対象外になり得ます。現金・通帳・印鑑・貴金属は、引っ越し当日に自分のバッグへ。これは徹底してください。

値段が付かないものも「貴重品類」に入ります

約款が挙げているのは現金や宝石貴金属ですが、貴重品類はそれだけではありません。全日本トラック協会は、ブランド品・高価家具・高価家電などの高額品に加えて、位牌や親の形見のように「主観的に」大切なものも貴重品類にあたるとしています(「引越に係るQ&A」令和8年2月版・2026年9月19日確認)。
つまり、値段ではなく「無くなったら取り返しがつくかどうか」でも線が引かれています。事業者から貴重品の有無を確認されたときは、必ず申告してください。申告せずに段ボールへ入れてしまうと、事業者が引受を断るかどうかを判断する機会そのものが無くなります。自分で持ち運べるものは、自分で運ぶことも検討してください。

自分でやるか、任せるかの分かれ目

自分でやってよい任せたほうがよい
衣類・タオル・寝具割れ物の量が多い食器類
本・書類(重さに注意)テレビ・パソコンなどの精密機器
日用品・調理器具大型家具の分解と再組み立て
少量の食器(緩衝材があれば)照明器具・鏡・ガラス天板
判断の基準はシンプルです。壊れたときに困るもの、自分で包む自信がないものは任せる。前章のとおり、責任の所在が変わるからです。

テレビは特に慎重に

薄型テレビ、とくに有機ELテレビはパネルが非常に薄く、衝撃や圧力に弱いとされています。横に寝かせて積むと、輸送中の振動で破損することがあるため、立てた状態で固定して運ぶのが基本です。
購入時の元箱があると、業者側も扱いやすくなります。捨ててしまっている場合は、見積もりの段階でテレビのサイズと種類を伝えてください。精密機器の取り扱いに対応していない業者もあります。

食器の詰め方

一般的なコツとして、次の点が挙げられます。
  • 1枚ずつ包む(まとめて包むと擦れて割れます)
  • 皿は立てて詰める(平積みすると下が割れます)
  • 隙間を作らない(動くと割れます)
  • 箱は小さめに、重くしすぎない
最後の点は前述の「運送に適する荷造り」に直結します。持ち上げられない箱は、運送に適した荷造りとは言えません。

荷解きまで頼むかどうか

荷造りばかり注目されますが、荷解きも各社のプランで分かれています。
引っ越し後は、手続きや片付けが並行して発生します。荷解きを自分でやると、段ボールが数週間残ることは珍しくありません。仕事の都合で時間が取れないなら、荷解きまで含むプランを検討する価値があります。
なお、使用済み段ボールの回収の有無と時期は会社によって違います。申し込み時に確認してください。

荷物の破損・紛失は、引き渡しから3か月で言えなくなります

荷物の一部が壊れていた、無くなっていたという場合、事業者の責任は、荷物を引き渡した日から3か月以内に通知を発しないと消滅します。
第25条(責任の特別消滅事由)
「荷物の一部の滅失又は損傷についての当店の責任は、荷物を引き渡した日から三月以内に通知を発しない限り消滅します。」
— 国土交通省 標準引越運送約款より
ここが、荷解きを後回しにしたときに効いてきます。段ボールが数週間残ること自体は珍しくありませんが、開けていない箱の中身は、壊れていても気づけません。3か月は、季節がひとつ変われば過ぎます。
全日本トラック協会も、引越作業の終了後にやることとして次を挙げています(「引越に係るQ&A」令和8年2月版・2026年9月19日確認)。
  • 速やかに全ての荷物を開梱し、紛失・破損がないか確認する
  • エアコンなどの家電機器類は動作確認をする
  • ひな人形など、日常的に使わない祭事品も確認する
最後の1つが、期限との関係ではいちばん危ないところです。年に一度しか出さないものは、次に出すときには3か月を過ぎています。荷解きを自分でやると決めたなら、使わないものの箱こそ先に開けて、中身だけ見ておいてください。
※ 3か月は「荷物の一部の滅失又は損傷」についての期限です。このほかに、荷物の滅失・損傷・遅延についての責任は、引渡しがされた日(全部滅失の場合は引渡しがされるべき日)から1年以内に裁判上の請求がされないと消滅します(第27条第1項)。

見積もりは「作業範囲を明示して」取る

ここまでの話をまとめると、見積もりの取り方が決まります。
伝えることなぜ必要か
荷造りを誰がやるかプラン名は会社ごとにバラバラで、比較にならないため
荷解きを誰がやるか同上
割れ物・精密機器の有無取り扱いの可否と資材が変わるため
段ボールの回収の有無会社によって違うため
そして、この条件を揃えた見積もりを複数社から取らないと、高いのか安いのか判断できません。引っ越し料金には定価がなく、時期・荷物量・距離・作業条件で倍以上変わり、同じ条件でも空き状況で動きます。
優先したいこと向いている方法受け入れること
手間を減らして、厳選された数社で比べたいHALESEE(ハレシー)比較できる社数は少なめ
とにかく多く比べて、できるだけ安くしたい引越し侍の一括見積もり電話とメールの本数

まとめ

  • 約款上、荷造りは原則として荷送人(利用者)の義務。業者に頼むとその分の費用がかかる構造
  • 運送に適さない荷造りだと、業者が荷造りをやり直し、費用は利用者負担になり得る
  • 壊れたときの立証責任は事業者側。「注意を怠らなかった」と証明できなければ賠償する規定
  • ただし利用者の故意・過失は免責。自分の荷造りが原因なら対象外になり得る
  • 現金・有価証券・通帳・キャッシュカード・印鑑・宝石貴金属は受取を拒絶できる。自分で持つ
  • 割れ物と精密機器は、責任の所在が変わるので任せる判断もある
  • 有機ELテレビは横に寝かせない。元箱があると扱いやすい
  • 食器は1枚ずつ包み、立てて詰め、隙間を作らず、箱を重くしすぎない
  • 見積もりは荷造り・荷解きの担当と、割れ物の有無を明示して取る
  • 家屋(床・壁・据付け家具や家電)の傷は、約款に賠償の記載がなく民事の扱い。荷物を動かす前と後の両方で、事業者と一緒に確認する
  • 新築で傷を避けたいなら、見積もりの時点で養生の要望まで伝える(費用がかかる場合がある)
  • 賠償は原状回復のための修理が慣例。修理が難しければ、経過期間をもとにした時価相当額での話し合いになる
  • 位牌や親の形見のように「主観的に」大切なものも貴重品類。確認されたら必ず申告する
  • 荷物の一部の破損・紛失は、引き渡しから3か月以内に通知しないと事業者の責任が消滅する

あわせて読みたい

各社のプランは作業範囲で分かれています。呼び名は会社ごとに違うので注意してください。
冷蔵庫と洗濯機は、荷造りとは別の準備が必要です。
引っ越しで期限があるものだけをまとめました。
新居での開梱と片付けをどこまで頼めるかはこちらです。
大型家具の分解・組立には、業者でも対応できない例外があります。
仏壇だけは、梱包の前に寺への相談が先に来ます。
※ 本記事は国土交通省の標準引越運送約款の条文に基づく一般的な解説です(最終改正 令和7年国土交通省告示第193号・2026年9月19日に条文を確認)。事業者によっては独自の約款を使用している場合があります。実際の責任の判断は個別の事実関係によるため、トラブルになった場合は消費生活センター等の窓口にご相談ください。